気がつくと、もう十五年も前のことになる。
まだ二十代前半だった頃、作品制作のために鳥取へ通っていた。
街自体に明確な被写体があったわけではないけれど、そこへの道のりを辿っていくことが重要なプロセスだった。
神戸や大阪で過ごしてきたわたしにとって、鳥取は掴み所のない地方都市そのものだった。
それでも何度と通う内に場所と場所との距離を把握し、幾つかの好きな場所や店を見つけたりして、自分にとって心地のいい行動パターンが出来上がっていくのがわかった。
そうして、なんのゆかりもなかった街に、どんどんと自分だけの地図が出来上がっていったのだ。
撮影はこれが最後にしようと鳥取を訪れたとき、好きだったお店に頼んで自身の作品集を置いてもらうことにした。
自分の「何か」を、鳥取に置いてきたかったのだと思う。
それから随分と時間が経ってから再びその店を訪ねてみると、わたしの作品集は変わらずまだ本棚に並んでいた。その後、旅行で鳥取を訪れた友人や帰郷した知人からも、その作品集のことで連絡をもらったことがある。
あの店は、今もまだ同じ場所にあるだろうか。
花見をした川沿いの桜は、今年も見事に咲くのだろうか。
通っていた二年半の間でいろいろなことに詳しくなったけれど、今の鳥取のことを、わたしはもう何も知らない。
鳥取 2004〜2006